宇治森徳 上薗みゆきさん/甘露園 田村千夏さん 特別インタビュー
【後編】
これまでの【前編】【中編】では、お茶を楽しむために知っておきたい基礎知識をお伝えしてきました。
今回の【後編】では、お茶をアレンジする楽しみ方をご紹介します。また、お茶と一緒に味わいたい料理やお菓子にも話を広げていきます。
語ってくださるのは、株式会社甘露園の代表取締役、田村 千夏(たむら・ちか)さん。

田村さんは、大阪・アメリカ村の中にある日本茶カフェ「水滴々(みずてきてき)」のオーナーでもいらっしゃいます。
今回のインタビュー企画も、店内にある小上がりの茶室で行わせていただきました。


一番茶&一煎目へのこだわり
「水滴々」では、ベースになるお茶にフルーツ、ハーブを組み合わせてトッピングする「カスタムティー」が看板メニューですね。それ以外も含め、使うお茶には並々ならぬこだわりがあるとお聞きしました。
はい、お店では「一番茶」かつ「一煎目(いっせんめ)」のお茶しか使いません。
一番茶というのは、その年の最初に出た新芽を摘んでつくる初摘み茶で、新茶とも呼びます。冬の間、土の中で思い切り栄養を吸い上げた新芽には、最高の香りとうまみが詰まっています。
また一煎目とは、急須にお湯を入れて茶葉を蒸らし、最初に茶わんに注ぐお茶のことです。一番茶の素晴らしさを、そのまま急須の中で再現できるのは一煎目しかない。だから二煎目以降は捨てます、勿体ないけれど。
そこまで徹底する理由というのは?
私の願いは、お茶の世界をもっと広く開放して、嗜好品としての地位を向上させることなんです。
昔、アメリカからコーヒーチェーン店が日本に上陸してきたとき、ラテなどの取っ付きやすいアレンジメニューを入り口としてスペシャルティコーヒーが認知されるようになりました。
私はその頃から、日本のお茶が生き残る道もコレしかない!と思っていて。
「水滴々」では、こんな上等なお茶に砂糖やフルーツやハーブを入れるの!?と言われるようなものを提案しています。邪道かもしれません。ただ、本当においしいお茶を使うからこそできることだし、一番茶の一煎目でなければ出せない味がある、そう思っています。

最初は「珍しい」とか「映える」などがきっかけで試してもらえればいいと思っています。絶対また飲みたい!と思えるほどの衝撃があるはずですから。
確かにそう考えると、一番茶の一煎目のインパクトには何物もかないませんね。
コーヒーに二煎目がないように、お茶も二煎目、三煎目まで飲むと印象がどんどん悪くなるんです。嗜好品として、高いレベルの味わいを保ちたいので妥協はしません!
お茶のアレンジ、おすすめは抹茶
お店でされているような楽しみ方を家でも試したいんですが、どんなお茶をベースにするのがおすすめですか?
一番試していただきたいのは、抹茶を点てて牛乳と合わせる抹茶ミルクでしょうか。間違いなくおいしいですよ。
自宅での抹茶の点て方は、茶道具を使わない方法もネットで紹介されていますけど、できれば茶筅(ちゃせん)は持っていただきたいです。使いこなせればきっと楽しいはずですから!お店に来られる外国の方は、茶筅を購入されることが多いんですよ。
お店には外国人観光客の方も多くいらっしゃるんですか。
すごく多いです。特に外国の方に人気なのが「濃茶(こいちゃ)ミルク」。
抹茶には、大きく分けて「薄茶(うすちゃ)」と「濃茶(こいちゃ)」の2種類があって、一般的にイメージされる抹茶は薄茶のほうです。
濃茶は文字通り、薄茶の2〜3倍の抹茶を使用したとても濃いものです。この、ドロッとしたペースト状の抹茶を氷の上からトロトロ垂らして、牛乳と二層にするのが濃茶ミルク。抹茶は比重が軽いのでミルクより上に層のようになって、見た目も美しいんですよ。

これをノンシュガーで飲む外国の方が多いです。ネットやガイドブックでよく勉強してからお越しくださって「一番いい抹茶はどれ?」と尋ねられることが多いです。「せっかく来たから、いいものを飲みたいから」と。
いつだったか、フランスからのお客様が「今日が旅の最終日だったけど、エクセレントな体験ができた、ありがとう!」と言ってくださったこともあります。私も感動したうれしい出来事でした!
そうそう、抹茶はビールともよく合います。キンキンに冷えたお水で抹茶を溶くのがコツです。ビールはどんな銘柄でも、お好みで。クラフトビールを使う人もいます。ぜひ、試してみてください。
料理やお菓子とのペアリング
料理やお菓子と一緒にお茶を楽しむとき、相性のいい組み合わせはありますか。
ほうじ茶はマルチプレーヤーです。品質の高いほうじ茶はケーキにも、中華料理にも幅広く対応できるので常備しておくといいと思います。油っこい料理の後も、口の中がさっぱりしますよ。
それから、先ほどもお伝えしましたが抹茶は何にでも合いますね。フレンチのテリーヌにも、濃い生チョコのような洋菓子にも。

各産地のブランド茶と、お料理のペアリングはどうでしょう。
静岡茶は、生ものを使う寿司や魚料理に強いです。太陽をいっぱいに浴びて育つ静岡茶は、力強い渋みを持っているので、口に残りがちな生臭さをそのつど切っていく。お口直しのような役割を果たしてくれます。
最近ではティーペアリングという言葉もよく聞きます。いろんな組み合わせを試して楽しんでいただきたいですが、無理してお料理に合わせないほうがいい場合もあります。
特に、「あさつゆ」という品種を使った八女(やめ)茶のような、うまみに特化した九州地方のお茶は、お茶単体でそのままの味わいをじっくり堪能してほしいですね。
いろんなお話をありがとうございました! 最後に、「もっと積極的にお茶を楽しんでみようかな」と思われている方にメッセージをお願いします。
いろいろ語りましたが、お茶は本当に、一枚の葉っぱからどこまでも広がっていく奥深い世界です。一生、飽きることはないと思うので、どうぞゆっくり楽しんでくださいね!
<インタビューを終えて>

株式会社宇治森徳
上薗 みゆき(うえぞの・みゆき)さん
「宇治森徳の企業理念は、茶を知り、人を知り、人を癒すという意味の“知茶知人(ちちゃちじん)”。私は高校時代に飲んだお茶のおいしさに感動し、それが宇治森徳のお茶だったことが入社動機になりました。皆さんにもそんな感動体験がありますように。」

株式会社甘露園 代表取締役
日本茶カフェ 水滴々(みずてきてき)オーナー
田村 千夏(たむら・ちか)さん
「ご家庭できちんとお茶を淹れるととても味わいが変わります。電子温度計とタイマーがあれば便利ですし、茶筅は3,000円ぐらいで購入できます。抹茶用の茶わんもあったほうが雰囲気が出ますが、カフェオレボウルでも代用できます。さあ、一歩踏み出してみませんか?」

水滴々
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06-6252-8522
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土・日・祝日 11:00-20:00
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